ゲーム「エースコンバット04 シャッタードスカイ」を使った人体実験についての手引書

 

概要

プレイステーション2用のフライトシューティングゲームエースコンバット04 シャッタードスカイ」(2001年 ナムコ、以下AC04と略す)を材料とし、元来の設計とは異なる手順での遊戯を行わせることにより、ビデオゲームにおけるメディア特性が持っている複層的な視点の効果を検証する。

 

 

実験材料

1 フライトシューティングゲームエースコンバット04 シャッタードスカイ」(2001年 株式会社ナムコ:株式会社バンダイナムコエンターテイメント

1 同ソフトウェアを実行可能な電子装置

1 同ソフトウェアの関連Webコンテンツ「AC04web(現在はアーカイブ化されて存在https://www.acecombat.jp/pdf/acecombat04.pdf)(以下AC04webと略)

1 Webコンテンツを閲覧可能な電子装置

 

被験者 1実験につき1

以下の要件を満たしていることが望ましい

1 エースコンバットシリーズほか、フライトシューティングの操作に習熟していること(※1

2 AC04のコンテンツ内容について、伝聞を含め既知の知見を持っていないこと

3 TRPGなどの経験を通じ、ロールプレイという遊戯形式についてある程度理解していること

特に3は重要であり、プレイ中の被験者はゲーム体験に対し、没入的に対面していることが望ましい

 

実験手順

前提 実験者(以下甲)は被験者(以下乙)に対しプレイ手順、視聴すべきコンテンツ、および視聴すべきでないコンテンツのみを指示し、コンテンツに対する乙の態度については「主観的に臨むこと」以外具体的な指示を行わない。

1 本遊戯前の事前準備として、AC04webのコンテンツを乙に視聴させる。ただし、「ユージアニュース」内P32P36Usea Today Special "THE DAYS OF SHATTERED SKIES”」のみ視聴させない。(※2

2 AC04本編、キャンペーンモードを乙にプレイさせる。ただし、本編の幕間として再生される「サイドストーリー」パートについては、1周目においてはこれを視聴させない。手動で再生をスキップさせるか、いずれかの方法で本編クリア済みのデータを乙に入手させ、クリア後オプションの「INTERLUDE」のチェックをOFFにさせる。

 1 プレイ本編開始直後

 2 M1「張り子の基地」デブリーフィング終了後

 3 M2「喉元のやいば」デブリーフィング終了後

 4 M5100万バレルの生命線」デブリーフィング終了後

 5 M7「大陸深部の目標」デブリーフィング終了後

 6 M8「ソラノカケラ」デブリーフィング終了後

 7 M12ストーンヘンジ攻撃」ブリーフィング開始前

 8 M12ストーンヘンジ攻撃」デブリーフィング終了後

 9 M14「放たれた矢」デブリーフィング終了後

 10 M15「解放」デブリーフィング終了後

 11 M17「ファーバンティ包囲戦」デブリーフィング終了後

 12 M18「メガリス」終了後

サイドストーリーを視聴させない以外は、通常の手順においてキャンペーンモードの1周目をクリアさせる。(注1

3 AC04本編、キャンペーンモードの2周目を乙にプレイさせる。この周ではサイドストーリーもスキップせず視聴させる。

サイドストーリーも含め、ゲーム元来の設計通りの手順でキャンペーンモードをクリアさせる。

 

4 乙にプレイ終了後の感想を提出させる。(注2)乙が必要十分量の感想を提出するに至らない場合は、3の手順を繰り返してからこれを行うことも検討する。

5 必要に応じてAC04webのコンテンツ、「ユージアニュース」内P32P36Usea Today Special "THE DAYS OF SHATTERED SKIES”」を視聴させ、感想を提出させる。

 

実験の趣旨と注視すべき被験者の行動と反応

 

この実験の重要な目的は、AC04が持つ特異的なコンテンツの提示方法「複層的な視点構造」の効果を確認することである。

 

ゲームの本質的特性として、インタラクティブ(双方向に干渉が可能)なメディアである点が挙げられる。

ゲームを遊戯する人間は、メディアから情報を一方的に受け取るだけの視聴者ではなく、入力装置を介してメディアに主体性を持って参加が可能なプレイヤー(PL)である。

また多くのゲームでは、PLの主観的視点位置をゲーム内部に据えるため、PLが操作可能なゲーム内キャラクター、プレイヤーキャラクター(PC)が存在する。

PLPCの視点と干渉手段を借りることによってゲーム世界で行動し、その結果がゲーム世界そのものに影響を与えられる(ないしはそのように錯覚させられる)ことで、PLはメディアに対して主体性を持った深い没入感を受けることができる。

 

しかしAC04のコンテンツ構造は

・ゲーム本編における、主体性を持って没入的にプレイ体験を行うPL=PC的視点

の他に、

・サイドストーリーなどから提供される、世界全体を客観視するPL≠PC的視点

の双方が存在し、それらを同時に体験する構造となっている。

主体性を持って没入するゲームのメディア特性と、映画・アニメーション・小説などの傍観的視点を主体として提供されるメディア特性の双方を持ち併せることで、PCとしてのロールプレイを行なっていたPL自身を含めたゲーム内環境を傍観する視点を提供するという特異性を持っている。

 

「自身が振る舞った行動も含めたコンテンツを客観視する」という構造自体は、TRPGに代表される非電源ゲームの時代から志向され続けていたものであるが、AC04は主観と傍観の視点を巧みに織り交ぜることでこれを実現したものである。

AC04における主観への誘導はゲーム本編のプレイ、およびPCである「メビウス1」の徹底した空座化によって誘導され、主体性を持って行うゲームへの没入感を提供する。

一方で傍観の提供は画面内の複数の情報によって行われるが、その中でも特に主観的に行われるゲームプレイとの対比として機能しているのが、幕間に挟まれるサイドストーリーである。

 

 

本実験では、サイドストーリーを視聴させないことであえてAC04が持っている傍観の視点構造の提供を弱化し、まず被験者に主観的没入を持ってAC04を遊戯させる(実験手順2)。

その後AC04が本来持っている傍観的視点構造を回復させた形式で被験者に遊戯させる(実験手順3)ことにより、被験者に実験手順2で主観的没入を持って遊戯していた被験者自身を顧みらせることが、この実験の要目である。

 

この実験で注意すべきなのは、実験手順23において、被験者が異なる視点位置を持っているべきことである。

先に挙げたAC04のコンテンツ構造の特異性によって提供される複層的な視点のうち、傍観的視点によって得られる体験の内容を把握するには、ゲームのメディア特性によって得られる主観的体験との差分を観察する必要がある。

よって注1の段階において、被験者はプレイに対して主観的に没入し、ゲーム内にその視点をおいて周囲を観察するようにAC04を遊戯することが望まれる。

この手段を達成するため、被験者はTRPGの遊戯形式のように、以下のような態度で臨むことが求められる。

ゲームの都合上、PCの知識や性格と、プレイヤーとして持っている知識や性格とを区別してプレイすることが要求される。これはプレイヤー自身の社会的立場とは別のシチュエーションに生きている人物としてのPCをよりそれらしく扱い、描き出すためとされる。

さらに実験手順3において、被験者は手順2の遊戯形式では弱化されていた傍観的視点について自覚的であることが望ましい。

手順2において、ゲームシステム側に促されるままに画面上の敵に対し「好戦的に」臨んで遊戯を行なっていた被験者自身と、その行動によって変化したゲーム中の環境について包括的に捉えることで、被験者自身の遊戯によって完成したAC04の世界を観察することが可能となる。

よって注2における感想は、画面内のNPC同士の関係性のみに着目したものでなく、PCを経由したPLの行動が、環境やNPCの関係性に与えた(と錯覚される)影響についてどう感じたのかが記述されるのが望ましい。

 

問題点

 

実験の前提条件となる被験者の選定が困難。これはエースコンバットシリーズがすでに発売から24年を経過しているシリーズであり、その中でもAC04が発売から18年を経過し、シリーズ中でも屈指の出荷本数を記録したタイトルであるため、被験者の要件12を両立する被験者が極めて少数であることに起因する。

要件2単独での達成についても、YOUTUBENICONICOといった動画共有サイト等においてプレイ動画が広く流布されているため、伝聞においてもAC04について予備知識を持っていない被験者を探すことが困難になりつつあることが予想される。

要件13についても、一般的なゲーム遊戯者において、エースコンバットシリーズとTRPGの双方を嗜好する傾向が薄いため、両立が困難であると予想される。

これらの要因に加え、ゲームコンテンツに対してどのような印象を抱くかは各個人が既に持っている価値観によって大幅に異なるため、対照群を用意することが困難である。

本実験の主材料となるAC04プレイステーション2用のソフトウェアであるが、これを実行可能なハードウェアは既に生産が終了しているため、2019年現在では新規入手が困難となっている。(※3

 

 

 

おわりに

 

執筆者は常々「ゲームの本質とは体験である」と主張している。重要なのはゲーム内でいかなキャラクターが存在したり、ガジェットが並べられているかではなく、それがゲーム体験の中でどのような役割を担っているかであると確信している。

また、情報を受け取る順序によっても体験の質が変化してしまうという点についても、常日頃から主張している。

この実験も、プレイヤーの体験部分に着目し、自らの行動に対してフィードバックされる情報の順序をコントロールすることによって経過を観察するものである。

望ましい条件をすべて持つ被験者を選定するのは非常に困難であるが、逆にこれらすべての要件を満たす被験者が存在した場合、本実験は被験者に衝撃的な体験もたらす可能性が予測でき、また実験例においてもそれが証明されている(※4)。

この実験が被験者の人生、および価値観に対して、大きな転換点となるような衝撃を与えうることを考慮すべきである。

またこの実験を通じて、AC04のメディア特性について興味を持たれた場合、以下のウェブサイトも合わせて閲覧していただければ幸いである。

自筆 AC04論各種 https://togetter.com/t/acecombat04%E8%AB%96

茂内克彦著 ビデオゲームにおけるメディア特性――物語性と主人公に着目して https://manualzz.com/doc/4761488/%E3%83%93%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E7%89%B9%E6%80%A7%E2%80%95%E2%80%95%E7%89%A9%E8%AA%9E%E6%80%A7%E3%81%A8%E4%B8%BB%E4%BA%BA%E5%85%AC%E3%81%AB%E7%9D%80%E7%9B%AE%E3%81%97%E3%81%A6

 

小太刀右京著 完璧なゲームというのはポーランド礼賛日記 https://ninjahattari.hatenadiary.org/entries/2005/03/11

 

井上明人著  P-PC-NPCの三項構造 http://www.critiqueofgames.net/2004/02/_01_pp.html

 

※1)フライトシューティングゲームというのは決してとっつきやすいゲームジャンルではない。人は日頃から三次元機動していない。

※2)この手順1は手順2と手順3の間に実施しても良いかもしれない。

※3プレイステーション2各シリーズ、およびプレイステーション320GB/60GBモデル。発売は最も最近のものでも20076月(韓国・米国)。

※4)ボッチ少年こと秋月 皐氏。哀れなミュータントになっちゃった。ごめんね。